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「脚長差2cm」まで様子見は間違い?義肢装具士が解説する「1cmから始める補正」の重要性と補正の方法論

  • 執筆者の写真: 佑介 富澤
    佑介 富澤
  • 18 時間前
  • 読了時間: 8分

脚長差(左右の脚の長さの違い)について、「2cm以内なら軽度だから許容範囲」と言われたことはありませんか?

結論から言うと、脚長差の補正は2cm以内であっても、すぐに始めるべきです。

医学的に「2cm以内は軽度」という表現が使われることがありますが、これはあくまで「手術などの外科的処置を行うかどうかの目安」であり、「2cm以内だから補正しなくてよい(=体に悪影響がない)」という意味ではありません。

また、外履きの靴だけでなく、家の中での歩行(屋内履き)も忘れずに補正する必要があります。日本人は靴を脱ぐ文化なので見落とされがちですが、人は家の中でもかなりの距離を動きます。その時の補正も、屋外と同じくらい重要なのです。



補正が必要なラインは「1cm」



具体的な数字で言えば、1cm以上の脚長差がある方は、インソールや靴底加工による補正の対象範囲です。 最近の研究データでも、1cm以上の脚長差がある状態で歩行すると、酸素の消費量が増えたり、体への負担が増加したりすることがわかっています。

そもそも、脚長差は実は90%以上の人にあります。左右の足の長さが全く同じという人は、むしろ珍しいのです。 平均すると5mm程度の差がありますが、人間の体は賢いので、無意識にこの差を吸収し、日々の生活を何一つ問題なく過ごせています。

つまり、脚長差補正の理想的なゴールは、左右差をゼロにすることではなく、「体が許容できる5mm以内」に収めることになります。


【義肢装具士の余談】 私たち義肢装具士は、あえて「5mmの差」を意図的につけることもあります。 例えば、義足の方や、片麻痺で装具を利用されている方の場合です。 義足を5mm短くしたり、逆に健康な側の靴に5mmのインソールを入れて高くしたりすることで、足を地面に引っかかりにくくし、振り出しやすくする(クリアランスを確保する)ためです。 わずか数ミリの調整で、分回し歩行が改善するケースもあるので、非常に有効なアプローチとしておすすめです。



脚長差の種類と補正方法



話を戻しますが、脚長差には大きく2つの種類があります。

  1. 解剖学的脚長差:骨の長さ自体が物理的に違うもの(先天的、骨折、人工関節置換後など)。

  2. 機能的脚長差:骨の長さは同じでも、関節が伸びない(拘縮)等の理由で、機能的に長さの差が出るもの。


どちらの場合であっても、補正の対象となります。「機能的だから補正しなくていい」という考え方ではありません。

では、具体的にどうやって補正するのか。方法論は以下の通りです。


  • 1cm以内の差:インソール(中敷き)で補正

  • 1cm以上の差:靴底を加工(アウトソール加工)して補正


なぜ1cmで分けるのかというと、一般的なスニーカーで1cm以上の厚みをインソールだけで入れると、靴が脱げやすくなるからです。 靴のカカトの芯材が足をとらえきれなくなり、足が靴の中でゴソゴソと動く(ピストン運動する)ため、靴擦れの原因になります。そもそも足が窮屈で不快ですよね。 (※チャッカブーツやハイカットの靴など、足を覆う部分が多い靴であれば、インソールでもっと厚く補正できる場合もあります)


1cm以上の場合は「靴底加工」+「インソール」

カカトと指の付け根(MP関節)に高低差をつけ、つま先に向かって薄くなるように加工します。
カカトと指の付け根(MP関節)に高低差をつけ、つま先に向かって薄くなるように加工します。

1cm以上の補正が必要な場合は、靴底を一度剥がして、EVAなどの軽い材料を挟み込んで高さを調整します。

この時、ただ平らに高くするわけではありません。歩行パターンを阻害しないよう、「ヒールピッチ」を意識した加工を行います。 カカトと指の付け根(MP関節)に高低差をつけ、つま先に向かって薄くなるように削ります。もしここをフラット(平ら)にしてしまうと、つま先が地面に引っかかりやすくなりますし、自分の股関節を過剰に持ち上げないと足が出なくなるため、疲労の原因になります。


では、靴底の加工だけでいいのか?というと、そうではありません。インソールとの併用をお勧めします。


脚長差がある足は、無意識にバランスを取ろうとして変形していることが多いです。

  • 長い脚:長さを短くしようとして、土踏まずを潰している傾向(扁平足気味)

  • 短い脚:長さを稼ごうとして、つま先立ちのような形になっている傾向(ハイアーチ気味)


この傾向自体は靴底を揃えてもすぐには変わりません。そのため、インソールを使って足の裏にかかる体重を適切に支えてあげる必要があります。 また、靴底加工は大まかな調整しかできないため、「最後の5mmの微調整」をインソールで行うことで、限りなく左右差のない状態に近づけることができます。



家の中こそ、補正が必要です。


屋内利用を想定したケアサンダルの加工例
屋内利用を想定したケアサンダルの加工例

最後に強調したいのが、「屋内での補正」の重要性です。

屋外(靴)では高さが揃っているのに、屋内(裸足)では揃っていない。この状態だと、脳が混乱します。 体の基準をどこに合わせればいいのか分からなくなるので、せっかくの補正の効果が薄れてしまいます。

例えるなら、「朝・昼・晩飲む必要がある薬を、朝しか飲んでいない」ようなものです。

リハビリ中の場合、運動学習が阻害されます。「外では真っ直ぐ、家では傾いている」という矛盾によって、脳が正しい姿勢を覚えにくくなるからです。単純に、フローリングの硬い床の上で短い足に体重が乗るたび、膝や腰へ衝撃が伝わってしまいます。


ですので、靴工房マルエでは、屋内用のケアサンダル等に補高を入れてご提案させていただくことも多いです。



まとめ


色々と書きましたが、もちろん1cm以上の差があっても何の問題もなく生活されている方もいらっしゃいます。 不調が出るかどうかは、体の使い方のうまさ、年齢、筋力、運動習慣など、様々な要因によります。

ただ、「1cm以上の差があると問題が起きやすい」というのは事実です。

  • 病院で脚長差があると指摘された方

  • 昔から自覚がある方

  • 「昔は疲れなかったのに最近疲れる」「片方の腰や膝だけ痛い」といった不調を感じている方

「2cmまでなら大丈夫」という言葉は、あくまで手術をするかどうかの線引きに過ぎません。補正をしなくていい理由にはなりません。

ご自身の体のサインを見逃さず、違和感があれば決して放置しないでください。


もしかして私も? 30秒でできる「脚長差」セルフチェック



「もしかして、自分の不調の原因も脚長差?」 そう思った方は、まずご自宅で簡単なチェックをしてみてください。

  • ズボンの裾(すそ) いつも片方だけ裾が地面に擦れたり、破れたりしていませんか?

  • 靴底の減り方 左右の靴底を見比べたとき、片方だけ極端に減っていませんか?

  • ベルトの位置 鏡の前に立った時、ベルトのラインがどちらかに傾いていませんか?

  • 片足立ちのしやすさ 「右足は安定するけど、左足はグラグラする」といった左右差がありませんか?

これらに当てはまる場合、脚長差が隠れている可能性があります。


【重要】義肢装具士からのお願い


ここで、専門家として一つだけ強くお伝えしたいことがあります。

もし上記のチェックに当てはまったり、不調を感じたりしている場合は、自己判断でインソールを買う前に、まずは必ず「整形外科」を受診してください。

理由は2つあります。

  1. 正確な差はレントゲンでないと分からない 私たちが見ても、外見上の長さと骨の実測値が異なることはよくあります。正確な「脚長差(何mm違うのか)」を知るには、医師による画像診断が不可欠です。

  2. インソールや靴の補正が「逆効果」になることも 実は、脚の長さが違う原因が「骨」ではなく、「骨盤のゆがみ」で短く見えているだけの場合(機能的脚長差)も多いです。もし「ゆがみ」が原因なら、自己判断でインソールを入れたり、靴の補正(補高)をしたりするのは逆効果です。 本来はリハビリで治すべきゆがみを、これらで固定してしまい、かえって痛みを悪化させる恐れがあるからです。

「靴やインソールで補正すべき脚」なのか、「リハビリで治すべき脚」なのか。 それを見極められるのは、医療機関だけです。


まずは医療機関で、医師にしっかりと診てもらうことが重要です。



病院に行った後、ぶつかる「3つの壁」

整形外科で診断を受けた際、治療として「足底装具(インソール)」での調整を提案されることが一般的です。

しかし、実際に生活してみると、患者様はしばしば「インソールだけでは解決できない壁」にぶつかります。


  • 「1cm以上の差」の壁 インソールだけで高くしようとすると、靴のカカトが浅くなり、歩くたびに脱げそうになってしまう。

  • 「靴型装具」のハードル かといって、保険でフルオーダーの靴(靴型装具)を作るのは、金額も手続きも大掛かり。「脚長差の補正のためだけに作るのはオーバースペック(過剰)」だと感じてしまう。

  • 「既製靴加工」の不在 「市販の靴の底だけ、きれいに高くしてくれればいいのに……」と思っても、それを医学的視点を持って行える業者が近くに見つからない。


このような「日常の靴」の悩み、靴工房マルエにお任せください。



当店では他店で購入された靴の「持ち込み加工」も行っております。

実際に加工できるかどうか、靴の素材や構造を確認した上で判断いたしますので、まずは相談したい靴をご持参いただければと思います。

「病院に行くほどでもないかな…」と迷っている段階でのご相談も歓迎です。靴の専門店として、適切なアドバイスをさせていただきます。

この記事の著者

靴工房マルエ 技術監修 / 義肢装具士

現役の義肢装具士(国家資格保持者)。 普段は医療機関にて装具製作に従事していますが、「病院や製作所だけでは解決できない『日常の靴』の悩みを救いたい」という想いから、実家の靴工房マルエにて技術監修を行っています。 医療現場の知識と靴屋の技術を掛け合わせ、脚長差(LLD)や足のトラブルに対して、医学知識に基づいた解決策を提案・執筆しています。


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